ムキシ楽曲解説

楽曲解説

 前作『Vキシ(ヴイキシ)』から二年と三ヵ月。観客動員数も高度成長を続けるレキシの六枚目のアルバム『ムキシ』がいよいよご開帳。すでにシングルとしてリリースされた「KATOKU」「GET A NOTE」「SEGODON」を含む全十曲。今回もバラエティーに富んだサウンド、三浦大知、上原ひろみ、手嶌葵ほかのレキシネームが躍る豪華客人たち、そして恒例となった初回盤の手書きジャケットは過去最高の一万六千六百六十六枚。まさに元号が変わるという歴史の節目、平成最後のアルバムにふさわしく、現在進行形のレキシの歴史がきゅっと詰まった痛快作となった。
「KATOKU」と「SEGODON」の流れから今回は幕末をテーマにしたナンバーを多数収録。それに加えて「清少納言」「石川五右衛門」「奈良の大仏」と、いわゆる大ネタが満載なのもファンには嬉しいところ。ただし「前から歌いたかったテーマもあったし、特に全体像は特に考えてなかったんですよ。まあいつものことではありますが」とは、御館様ことレキシの池田貴史本人の弁。
「前の『Vキシ』が出たら、あちこちで『次のタイトルは?』っていう話になってて。アルバムの評価とかより話題はそこかよ! ってことなんですけど(笑)。しょうがないからタイトルから考え始めました。SNSとかでは『レキ6(ろく)』説とか、一部では『ムキシ』説もあったんですよね。それでまあ、『レキ6』かなあ……って思ってたんだけど、カモン葵(手嶌葵)さんとのレコーディング中に、筆で書いてみたら6の字が筆に向いてない。すんごい書きづらい(笑)。16,666枚は無理! っていうことで『はい、ムキシにしまーす』ということになりました」
 かくして手書きジャケット優先のタイトルが決定。「レ」と「ム」の字形が近しいこともあって、『レキシ』『レキツ』『レキミ』『レシキ』『Vキシ』『ムキシ』と並べてみればみるほどややこしい結果となりにけり。往年のロック・ファンは「Chicagoのアルバムか!」と突っ込みたくなる壮観ぶりである。
 そして、肝心カナメの曲作りでは、今回も「ひとり合宿」を決行して(ひとりでは合宿じゃないんじゃないかというツッコミどころはありますが)、テーマとなる言葉にメロディーが重ねられていった。
「毎回のことですけど、シャカッチ(永積 崇/ハナレグミ)のスタジオに泊まり込みました。そこで曲の断片を作っていくんですけど、『Vキシ』のときにも言ってたように、もう『レキシは歴史のことを歌わなくちゃ』っていう意識じゃないんですよ。鍵盤に向かってね、もう自然に『♪たーいろうた〜いろう』とか『♪でじまでまってる』とか歌っちゃってる(笑)。自分でも驚きますね。『KATOKU』あたりで悟ったことですけど、とにかく曲を先行させると後で苦労するから、なるべく歌詞とメロディーが同時に出てくるようにしてるわけです。それがもう自然体というか、考えずに曲作りができるようになった。もちろん仕上げるまでの苦労はずっと変わらないんですけど、それでも、なんでも十年以上やってみるもんだな、と」
 ある意味で「レキシの甲冑」を着なくてもよくなった、ノーガード戦法ならぬ「ノー甲冑戦法」。そう思ってアルバム収録曲を聴き直してみれば、いわゆる「史実」を盛り込んだ歌詞というよりは、歴史的な人物や歴史的遺産のイメージを借りた「レキシ・ポップス」が並んでいる。
 そして、そこには「過去の曲へのアンサーソングだったり、他の曲と一対になっている曲も多くて。そのシンメトリーが自分でも面白かったんですよ」という聴きどころも。例えば、前作に収録された「SHIKIBU」(紫式部)があっての「なごん」(清少納言)。「SEGODON」(薩摩藩)があっての「マイ会津」(会津藩)。さすが十年以上の歴史を誇るレキシ。因果は巡るレキシーランド。これもまたアルバム六枚のご褒美、すなわち「禄」でありましょう(駄洒落ですよ)。詳細はこの後のレキシ本人による各曲解説をご一読願えれば。
「いろんな巡り合わせも含めて、今回のアルバムで『レキシの音楽』を完成させたなっていう想いはあるんです。もう終わってもいいぐらに(笑)。誰かに家督を譲ってね。いやでも、もう次のアルバムのタイトルをメモってるぐらいだから、作るんですけどね(笑)」
 こうして誕生した『ムキシ』を携えてのツアーも間近に控えている。
「今はとにかくワンマンライヴがやりたくてやりたくて。夏フェスに出演したときに『GET A NOTE』も演りましたし、『SEGODON』も一回演ってるんですけど、フェスだと曲数が限られているから自由度が低いじゃないですか。自分の自由になる場で、このアルバムの曲がどうなっていくのか、早く演ってみたい。それが課題でもあるし、楽しみでもあります。曲数が限られているのは『狩りから稲作へ』が長すぎるからだろっていうご指摘はごもっともですが(笑)」
 この夏の「SUMMER SONIC 2018」では、居並ぶ黒船軍団をしのぐ盛り上がりをみせたレキシの演戯が、このアルバムを経て、さらなる実りを迎えることを期待しようではありませんか。

なごん

「SHIKIBU」を作ったときから「紫式部の曲があるなら清少納言を歌わないと」っていう思いがあった。そういう意味で「返歌」的なナンバー。もともと「枕草子」っていう言葉も、デビューした頃から曲の候補にはあげてましたから。なんか「草子」が「So Sweet」みたいでいいなあって。その流れもあって「yes! 清少納言!」です。そうです、ヒッポホップの「イエッセッショー!」です。こういうところがレキシの原点ですが何か(笑)。よく聴いていただければ「枕草子を片手に」やってくる、図書館にいそうな女の子のことだったりする歌詞。実は足軽先生(いとうせいこう)と話をしていたら「清少納言は元祖サブカルみたいなところがあって、他の人がなんと言おうと、好きなものを好きと言おうっていう人だった」って言われて。その言葉で「自分を肯定していいんだ、そのまま暗い部屋から飛びだそう」っていうイメージが開けた。清少納言から現代がつながった感じですね。さすが足軽先生です。サウンド的には、その気分がうまくはまったダンスナンバー。バンドとリハーサルをしながら作ったので、どこかでSUPER BUTTER DOGの頃の感覚に近いものになってたりして。そういう血筋なんだなあって。

石川五右衛門も歴史というかレキシにとっては大ネタ。でも、難しいんですよ、なにせキーワードが「泥棒」でしょ。「釜ゆで」も歌いにくいでしょ。こう見えてマジメなんで。「じゃあ、何を盗めば、歌になるかなあ」って考えましたね。「ハート」を盗むのは「キャッチーミー岡っ引きさん」で使っちゃってるし(笑)。結果的に「月の明かり」になりましたけど、どうも「月」が好きなんじゃないですかね、オレ。けっこう歌詞に出てくる。あとの歌詞は語呂の良さを優先させているので、あまり深く問わないでください(笑)。今回の中では、この曲はメロディー先行。ダンサブルな曲になったので、ぜひビッグ門左衛門 (三浦大知)をフィーチャーしたいっていう順番だったんですが、もうはまり役。自分でも怖いぐらい。ちなみに「ビッグ門左衛門」は、元々は「大近松(だいちかまつ)門左衛門」だったんですよ。「だいち」だから。それがいつの間にか「ビッグ近松門左衛門」になって「ビッグ門左衛門」で落ち着いちゃった。近松はどこいった?

7月にシングル「S & G」に収録した「G」の方。TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』のエンディング主題歌です。シングル・リリースのときにも話しましたけれど、鬼太郎はもちろん、水木しげる先生の他の作品も好きすぎて、最初は本当に悩んでたんですよ。でも、アニメの初期のシリーズのエンディングに流れていた「カランコロンの歌」が浮かんできて、そのちょっと怖い感じを思いだしたら「下駄の音がしたんだ」っていうフレーズとサビのメロディーが同時に浮かんできたんですね。今回、アルバムに収録するにあたっては、自分の手で新たに下駄の音を録りました。偉そうに言うほどのことじゃないですが(笑)。「手で」っていうのは本当で、手に下駄を持ってコンクリートの床に当てて歩いている風を演出しています。昔ながらでいいでしょ。ちなみに近づいているように聴こえますが、実際にはマイクの方がオレに近づいてきています。いらないですか、この説明は。特にこの曲と「SEGODON」は早くワンマンライヴで披露したいですね。フェスではできないような展開を思いっきりしてみたい!

出島で待ってる

自分で言うのもなんですが、「出島で待っている」というだけの歌です(笑)。最初は江戸初期のイメージで出島を歌おうと思ってスタートしたんですけど、なんか「出島で待ってる/ボクまだ待ってる」っていうサビができちゃって、今のカタチになっていきましたね。この感じが「歴史を意識しすぎずに、自然と出てくるようになった」部分。考えてみれば、出島って今でも観光地になってるし、そういう意味ではデートスポットだったりもするから、待ち合わせしていてもおかしくないし。でも、当時の出島には外国人と日本人のドラマもあっただろうし、離ればなれになっても待っているっていうイメージが膨らんで、この切なさにつながっているんですよ。そこがレキシの曲だなって思いますね。最後の「五時まで待ってる」はオマケ的な部分です。なんだろう……門がしまる時間とか? 「今日は出島で五時」的な(笑)。サウンド的にはゴリゴリのファンクバンドのアルバムに「ふと入っている爽やかな曲」みたいなイメージ。わかりますかね? ちなみに後で「SAKOKU」が出てきますので「出島」と「鎖国」で対になってます。

TAIROW 〜キミが目指してんのは〜

「大老」職っていうのは、将軍の補佐役として老中の上に臨時に設けられた最高職。それは大変だったと思うんですね。老中では仕切りきれない案件を扱って、諸藩の殿様に対峙して、反対派に狙われたりしてね。昼間は将軍、幕府への忠義として、その大役を果たしているけれど、じゃあ、夜になったらどんなことを思っているんだろう、けっこう孤独なんじゃないかしら……という歌です。大河ドラマの『西郷どん』では、大老・井伊直弼を佐野史郎さんが演じていますけれど、まさにあのイメージですかね。その忠義の心と、裏腹に孤独な気持ちに対して優しく「それでいいんだよ」「自分を信じて」って言ってくれるヴォーカルと言えば! そうです、カモン葵こと手嶌葵さん。元々、ファンだったんですけど、あるときお目にかかったら「レキシネームが欲しい」っておっしゃるじゃないですか。もう速攻オファー(笑)。これでまた一歩、ジブリにも近づけました。まだだいぶ遠いですが、それぐらいでいいんです。

2017年4月リリースのシングルです。ダイハツ「Thor」のCMに起用していただきました。あれからもう1年以上かあ(遠い目)。でも、忘れてないよっていう意思表示もあって収録しております。だって、苦労したんですから、このナンバーは。このときの生みの苦しみがあって「歌詞とメロディーはなるべく一緒に」という教訓を得たわけです。苦労はありましたけど、この曲のドアタマの「世襲制!」の言葉の響きが印象的だったこともあって、レキシを面白がってくれる人が増えた気もしてます。デビューした頃は「曲はいいのに歌詞が日本史で残念」とまで言われてましたから(笑)。サウンドはいろいろな反応があったミュージックビデオでもおなじみのように80年代ロックへのオマージュ。その流れが「SEGODON」につながっていきますから、サウンド面ではその2曲が対になってますね。

NHK大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソングという栄誉をいただき、シングル「S & G」としてリリースした曲。西郷隆盛の魅力を考えてみたら、偉業を成した偉人としてよりも人柄が大きいんじゃないか、大きくて包容力がある、気は優しくて力持ち的な人のことをみんなが「せごどん」って呼ぶんだ、みたいなね。今でもドラマを見る度に「なんてピッタリな曲なんだ」って自分で感心してますけど(笑)。「KATOKU」から曲調としてもつながっていますが、制作の時系列で言っても『Vキシ』のあとに「KATOKU」→「SEGODON」なんですね。そういう意味ではこのアルバムの大元になった2曲。「GET A NOTE」と同じく、もっとライヴで演りたい。2018年のレキシを象徴する曲でもあるので、ライヴに還元していきます!

大仏です。ビッグなテーマです。これはもうデビューの頃から「いつかは歌うんだろうな」と思ってましたし、「歌わないといけないよな」とも思ってましたね。だって、何かとお世話になっていますから、奈良には。レキシにとって恩返しの場所と言っても過言ではありません。いわばご恩返しの歌。奉納ですね。よーく聴いてもらうと「お礼の場所です」って言ってます。「SHIKIBU」のミュージックビデオでお公家さまで活躍してくれた八嶋智人さんが奈良市特別観光大使だったりするご縁もありますし。曲作り的には、最初はちょっとスティーヴィー・ワンダーを意識したサウンド重視の入り方だったんですけど、教訓的に歌詞がのってないと後で難しくなっちゃうと思って、歌詞も一緒に歌ってみて。我ながら「奈良に大きな仏像/誰が作るの」って安易すぎるかー(笑)、とは思ったんですけど、なんかそこにはまっちゃって。コレがいいんだなという結論に達しました。ちなみに少し歌詞を深めようと思って、途中で奈良の大仏の本も買ったんですけど、結局、まだ読んでません(笑)。

なんと「鎖国」のことをビッグバンドサウンドをバックに従えて歌う、キャブ・キャロウェイばりのジャズ・ブルースです。どんな曲だ(笑)。でも、この曲調で行きたいっていうのは、けっこう自分ではっきりしてました。オシャレキシこと上原ひろみさんとは以前から仲良くさせていただいていて、ずっと「一緒になにかやりたい」って言われていて、実現したのが2014年のライヴ「レキシ対オシャレキシ~お洒落になっちゃう冬の乱~」。で、「録音もやりたいね」って言われてたんだけど、まあ、最近は言われもしなくなってたんですよ。ちょうどこの曲をまとめようとしてたときに食事をして「アルバムで一曲ビッグバンドでやりたいんだよねー」って言ったら「アレンジしようか」って。「いや、それだったらフィーチャリングとかあり?」って返したら「それ、私は前から言ってますよね!」って(笑)。世界を股にかけて活躍してる人がレキシと演りたがるのが不思議でしょうがないでしょ? いっぱい凄い人と演ってるじゃない(笑)。そんなわけで、レキシとオシャレキシ、13人からなる黒船ビッグバンド(from GENTLE FOREST JAZZ BAND)、そしてベースとドラムという編成で一発録りをいたしました。事前リハーサルもなし。テンポのガイドになるクリックもなし。ラストのアドリブの掛け合いまで含めてダビングもなし。すべて無修正。3〜4トラックを録りましたが、奇跡でしたね。2014年のライヴで鍛えたコンビネーションが効いております。

アルバムの収録曲がある程度見えてきたときに「薩摩の曲(SEGODON)があるのに、会津の曲がないのはどうなんだろう」って思い始めたんですね。歴史的な出来事が今でもその土地の個性になっているっていう意味でも会津は大きな意味がありますから。レキシを名乗って活動するのに会津ははずせないよな、どうしようかなあと思って足軽先生=いとうせいこうさんに相談したら「それは入れた方がいい」と。ジャケットのディレクションをしてくれた箭内道彦さんも福島ですから、話したら「ぜひ入れてください」って言われて。箭内さんが2011年の東日本大震災の直後に「LIVE福島」というイベントを開催したんですが、そのPR映像で西田敏行さんのナレーションのバックにピアノ曲を付けて欲しいって頼まれたんですね。そのときの曲がイントロで弾いているメロディー。そのテンポとおおまかなテーマだけ足軽先生に伝えて、返ってきたのがこのリリック。それはもう鳥肌が立ちましたよ。暗喩を駆使して白虎隊のことを詠ってるじゃないですか。凄いな、と。ちなみに「Open my eyes」っていう歌詞は、元は「Open your eyes」だったんですけど、「自分から目を開く」っていう方がいいなって思って変えたんですね。それで「マイ会津」。それも含めて、制作の最後にいろんなことを曲にいい具合に落とし込めた。だって、この曲ができたことで、東日本大震災から今の自分につながったし、縄文と弥生を歌った「狩りから稲作へ」で始まった足軽先生との共作が「幕末」まで至ったんですから。もうね、これでレキシは完結か! って本気で思いましたね。日本史のマトメかって(笑)。

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