相撲の聖地と知られる東京都墨田区・両国。本場所開催中は好角家たちで賑わうこの街も、この日ばかりは少し異なる様相を見せていた。駅前のロータリー、近隣の飲食店、そして両国国技館の周辺には、鞄から稲穂を覗かせた人があちこちに。レキシの1年半ぶりの単独ツアー〈IKEMAX THEATER〉の東京公演が、両国国技館にて開催されるのだ。国技館の入り口には、いつもなら様々な力士の名前が染め抜かれた幟(のぼり)がずらっと並んでいるのだが、この日は「紫式部」「聖徳太子」「織田信長」「平家の落武者一同」など、歴史を彩った偉人たちからレキシに贈られた幟が堂々とはためいていた。
 1万枚のチケットも即日完売。砂かぶり席から二階スタンドまでみっちりと埋まった、まさに「満員御礼」の両国国技館。本来であれば土俵がある場所に作られた正方形のセンターステージの真ん中には、一段高い円形の舞台が。それを取り囲むように各パートの楽器が設置された。これからはじまる大一番を前に観衆の期待も高まる中、いよいよ客電が落ち、ホラ貝がブオーッと鳴り響く。花道からは高々と掲げたレキシと書かれた幟に続いて、よく時代劇で殿様が乗っている「駕籠(かご)」が現れた。センターステージの上に駕籠が置かれて、いよいよ御館様の登場か!と思いきや、ステージ上方に下ろされたスクリーンに映像が映し出された。

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 スクリーンでは架空の映画の予告編を次々に流していく。「これはぼくとぼくのともだちのお話」というキャッチの『ikE.T.』や、御館様と元気出せ!遣唐使(渡和久)がイケタニック号の先端で手を広げて重なり合う海洋ラブストーリー、さらには御恩と奉公と正人(鈴木正人)、健介さん格さん(奥田健介)、伊藤に行くならヒロブミ(伊藤大地)、貝塚太郎(磯貝サイモン)が4姉妹役を熱演する『池街diary』、とどめに「NO MORE映画泥棒」ならぬ「NO MORE稲穂泥棒」まで、無駄に凝りに凝りまくったパロディ映像をこれでもかと投下。国技館を爆笑の渦に巻き込んでいく。そして!いよいよ!「20th REKISHY CAT」のロゴが映し出されると、駕籠の中から御館様が登場!(ここまでで10分近く時間が費やされた)。「超待った!国技館行くよー! Shakeしていくよー!」とシャウトすると、「姫君Shake!」からライブがスタート! ミラーボールが回る中、早くも羽織を脱いで振り回しながら歌う池ちゃん。合間に『プリティウーマン』『ゴースト』『ネバーエンディングストーリー』など名作映画のテーマを織り交ぜたハリウッド仕様で、一気に最高潮まで盛り上げた。続いて「大河ドラマ『真田丸』の主題歌です」という嘘情報から奏でたのは「真田記念日」。「もっとサナダちょうだい!」と客席にサナダコールを要求するも、サラダ→サカナ→おさかな天国→さだ(まさし)だ→海女だ……とアレンジしまくって、オーディエンスを翻弄していく池ちゃん。しまいには『ロッキー』のテーマにあわせて、♪サナーダーサナーダーと替え歌しはじめる始末。歌い終わったタイミングでチャンプのように高く拳を掲げた御館様がピンスポットで照らされて、なんだかわからないが異様にかっこよくキマりまくった感動の名シーンであった。

 「やばい! 4方向やばい! ふだんの4倍動かないといけない!」と国技館でワンマンを行うことに若干の後悔をにじませつつも「どうもケビン・コスナーです」と、おなじみながらこのツアーでこそ映える自己紹介を披露する池ちゃん。「たろちゃん、あそぼ!」と今回のツアーから初参加となるキーボードの貝塚太郎とのイチャイチャタイムを経て、3曲目の「キャッチミー岡っ引きさん」では御館様と貝塚太郎が美しいハーモニーを披露した。「OK、いい感じじゃない国技館」とごきげんな池ちゃんは「on ベース! 綾瀬はるか!」と、先ほどの『池街diary』で長女役を演じた御恩と奉公と正人を紹介。「すずちゃん鎌倉に来ない?一緒に暮らさない?」というセリフをベース演奏で再現するというトリッキーな名シーンを挟みながら、池ちゃんが「みんなで一緒に開国しようか?」とシャウトし演奏されたのが「ペリーダンシング」。相撲の聖地が一瞬して巨大なディスコティックに変貌した。『サタデーナイトフィーバー』からモー娘。「LOVEマシーン」、『フラッシュダンス』~武富士のCM(古い!)~少年隊「仮面舞踏会」と織り交ぜていく演奏に、昭和の記憶が次々にフラッシュバックしていく。ファンキーな熱狂を引き継ぐように披露されたのが、池ちゃんのファンキーなオルガンプレイも大フューチャーされる5曲目「salt & stone」。吉良邸跡もある両国の地で、赤穂浪士討ち入りの日の2日後に大石内蔵助をテーマにした曲を聴くことの感慨にひたっていたら、いつしか曲は「ゴッドファーザー」のスカ・ヴァージョンに変化していったりと、油断も隙もあったものではない。

 レキシにとって初のシングルがリリースされたという話題をトークしながら、ステージ上で〈十二単衣〉に衣替えしていく池ちゃん。あのゲストが登場するのか?とザワザワしはじめた客席に向かって「来ませんから! いつも来ると思うなよ!」と釘を刺してからいよいよ歌われたのが「SHIKIBU」。新曲ながら早くもレキシの定番曲になっている「SHIKIBU」だが、平安京への想いや平和への祈念を込めた「平!(Hey!)」というシャウトで会場はさらに一体となった。立て続けに「和をもって尊しとなす」と歌う「憲法セブンティーン」をグルーヴィに奏でると、ほっぺた犯科帳(類家心平)のトランペット~TAKE島流し(武嶋聡)のサックス~池ちゃんのキーボードとソロをつないでいく。
 渋くキメたところで、メンバーは退席。円形ステージの真ん中に移動式のキーボードが置かれると〈ひとりぼっちのリクエストコーナー〉と銘打って、客席からのリクエストに応える一幕が。ブルージーにアレンジした(まさかの!)「Takeda'」を筆頭に、「アケチのキモチ」「妹子なう」「ハニワニワ」「LOVE弁慶」をじっくり聴かせた。

 再びメンバーを呼び込むとライブはいよいよ終盤。小さな米俵が客席に持ち込まれると(五郎丸ポーズで蹴ろうとする2015年らしいギャグを挟みながら)「年貢 for you」へ。途中で「年貢 by Me」に変わったり、「戦メリ」のメロディに「国技館 名物は焼き鳥よ おいしいよ」「実は俺 マンウィズの 中の人 嘘だけど」などと好き勝手に歌詞をつけてみたりと遊びたい放題。さらには〈今日のケイト・ウィンスレット サイコロ〉なるものでメンバーの中からウィンスレットとディカプリオを選び、『タイタニック』のあのシーンを再現させるという無茶ぶりコーナーに突入。結果TAKE島流しがウィンスレットに、御恩と奉公と正人がディカプリオに選ばれ、回転する台の上でロマンチックに手を広げて重なりあうという辱めを受けることに(すっかり脱線しまくっているが、まだ「年貢 for You」の曲中である)。一流ミュージシャンの身体を張った茶番に、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。
 そして「見上げると空には 一面のキラキラした武士でございましょう!」と御館様が叫ぶと「キラキラ武士」へ突入。馬のおもちゃを手にしながらステージを駆け回り歌う池ちゃん。「国技館!今年の武士納めいくよー!」と武士コールを連呼し会場中が熱くなると、ホーン隊は『スターウォーズ』のテーマを奏でる。ファンファーレとともに御館様は四方の客席に深く礼をして本編はフィナーレを迎えた。

 鳴り止まない拍手の中、アンコールがはじまるか?と思いきや、またもやステージ上方にはスクリーンが。すると往年のM◯M映画を彷彿させるライオンが吼えるロゴのオープニング(もちろんライオンの正体は池ちゃん)が流れ、『ミッション稲ホッシブル』と題した映画が公開された!
 レキシのファンクラブでもおなじみの〈イケディアナ・ジョーンズ〉が、おおばばさま(足軽先生 a.k.a.いとうせいこう)、池ちゃんの恋人役・和子(元気出せ!遣唐使)らを守るため、幻の稲穂を探しに出るという冒険活劇。C3PO(御恩と奉公と正人)、R2D2(伊藤に行くならヒロブミ)、キル・ビル(健介さん格さん)、ドク(貝塚太郎)、E.T.(TAKE島流し)、オラフ(ほっぺた犯科帳)、ケビン・コスナー(?????)ら一行の行く手をはばむ、やついいちろう。さまざまな攻撃を受けてピンチを迎えるも、その都度シャカッチ扮するハリー・ポッターやターミネーターが突然現れてイケディアナ・ジョーンズを救う……という往年の「新春かくし芸大会」で井上順が演じた洋画パロディを彷彿させる茶番劇なのだが、グダグダながらも異様なほどに熱の入ったCGが駆使されていたり、健介さん格さんの名台詞「行くビル」をはじめとする俳優陣のアドリブが奇跡的にハマって、館内には爆笑・失笑・苦笑とあらゆる笑いが巻き起こっていた。無事幻の稲穂を手に入れ、物語は大団円を迎える……と思いきや、恨みをもったやついいちろうがイケディアナ・ジョーンズを狙撃! そこにケビン・コスナーがボディガードよろしく自らを盾にイケディアナ・ジョーンズを凶弾から守る。ケビン・コスナーに扮していたのがなんと旗本ひろし(秦 基博)! 薄れゆく意識の中で最後に放ったメッセージは「縄文土器 弥生土器 どっちが好き?」だった。

 すると、ステージ上には青いラメのドレスに黒いタイトスカートに身を包んだホイットニー・ヒューストン(池ちゃん)が登場。続いて先ほどまでスクリーンに映し出されていたC3POをはじめとする一行に扮していたバンド・メンバーたちがそのままのコスチュームでステージに登場。ピンスポットの真ん中で、映画『ボディガード』の主題歌「I Will Always Love You」のメロディーに合わせて「縄文土器 弥生土器 どっちが好き?」を堂々と歌い上げた。意外な美脚を見せつけながら、「行こうか国技館! 縄文土器 弥生土器 どっちが好きーーーー?」とシャウトし、いよいよオーラスの「狩りから稲作へ」がはじまった。360度ぐるりとステージを囲むように揺れる稲穂、稲穂、稲穂。そのバカバカしくも感動的な光景を前に、ホイットニーこと御館様の自由な脱線ぶりも止まらない。ソウル・ディーバ風な衣装を身にまとったからか♪稲穂で許して~とアッコさんも笑って許さないカバーから、『エマニエル夫人』のテーマや、「タブー」にあわせて加トちゃんよろしく「ちょっとだけよ~」とストリッパーのような踊りをみせたりとやりたい放題。自分ですすんで遊んでおきながら「やめろ! 俺の音楽人生が終わる! これが最後の高床式になるかもしれん」と叫び、待望のキャッツコーナーへ。すると「その者蒼き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」という『風の谷のナウシカ』の名セリフを引用。まさに蒼き衣(ラメ入りのドレス)をまとって金色の野(稲穂が揺れる国技館)に降り立った御館様は、安田成美「風の谷のナウシカ」を実にストレートにカバーしはじめた。思わぬ名曲の登場にざわつきながらも、会場中がやさしい心でひとつになり「なんといういたわりと友愛じゃ。王蟲が心を開いておる」と感慨にふけっていると、サビの♪風の谷のナウシカ~と歌うパートへ差し掛かる。するとナウ~シカ~と歌い切る直前で突然「ナウシキャーーーーッッツ!」と、強引に風の谷から縄文時代へと引きずり戻した。いきなりのキャッツにブーイングにも近いざわめきが巻き起こる場内。すると挑発するように「もっとキャッツを感じろ! ここで来るとは思わなかったろ? これが本当の〈猫だまし〉か?」と、両国国技館ならではのギャグをスムーズに挟み込んでくる一枚上手な御館様。会場からの熱い要望に応え、再度チャンスを与えるように「ナウシキャッツ」のくだりを繰り返すレキシのメンバーたち。「こうしてキャッツばっかり言ってきましたが、いつ訴えられるかわかりません」と笑いを誘いながら「今年一年ありがとうございました。また来年もくだらないことやるんで、よろしくお願いします!」と1万人の大観衆に感謝の想いを伝えると、国技館のど真ん中でピンスポットに照らされながら「映画が~、そして、お江戸が好き~」と熱唱し、3時間弱に及ぶスーパー・スペクタクル・エンタテインメント超大作〈IKEMAX THEATER〉は幕を下ろした。