ライナーノーツ

「もはや戦後ではない」という言葉が流行語となったのは1956年(昭和31年)。それからちょうど60年。日本史のあれやこれやの中にあるエッセンスを抽出して絶妙なポップ/ロックに変換してきたレキシには「もはや○○でもない」現象が訪れていた。
 2007年のデビュー・アルバム『レキシ』以降、『レキツ』『レキミ』『レシキ』とライター&編集者泣かせの遊び心タイトルを冠してきたレキシの歴史に加わったのは、前作から2年ぶりとなる5枚目のアルバム『Vキシ』。下唇を軽く噛んで「ヴイキシ」と読む。ローマ数字の5=Vからの着想なのだから、もはや日本語でもない。がしかし、見事に見た目が「レ」に近いのだから稲穂が垂れる、いや頭が下がる。
 もちろん今回も豪華フィーチャリング・アーティストを招聘。ネコカミノカマタリ=キュウソネコカミ、ハッピー八兵衛=後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、阿波の踊り子=チャットモンチー、森の石松さん=松たか子が参勤。そしておなじみのシャカッチ=ハナレグミ、足軽先生=いとうせいこうと盤石の布陣。レキシネームの命名方法がどんどん粋狂になっているのもご愛嬌。
 そしてアルバムが回り出せば、そのタイトルやレキシネームの遊び心にも増して、今回もまたレキシにしか生み出せない刺客曲が目白押し。初のシングルとして話題となった「SHIKIBU」を中心に、「あー、そうきたかー」とご通家も膝を打つナンバーがずらり。曲のキーワードだけを並べてみても、牛車、中臣鎌足、アーティスト写真にもなった一休さん、古今和歌集&新古今和歌集、やぶさめ、紫式部、寺子屋、旧石器、刀狩り、徳川慶喜……と、最低でも10万年分ぐらいをワープする、めくるめくレキシーランド。
「いつもなるべくまんべんなく時代を入れ込みたいと思っているんですけど、今回は時代よりも土地が先に来ましたね。『SHIKIBU』をシングルとして制作したあたりから、あ、これは『西』だなっていう意識が出てきたんです。京都とか奈良とか、時代で言えば飛鳥、平安、室町あたりの日本の西側で起きたことを中心に。前の『レシキ』がほとんど江戸に寄っていたということもありますし」(レキシ=池田貴史)
 そんな「レキシは西へ」のコンセプトは早々に生まれつつも「何枚作っても産みの苦しみは前作から変わらないですよ。時間が経つのがあっという間過ぎて(笑)」とレキシさん。牛車のごとく進むレコーディングでは前作同様メンバーに助けられたという。
「歌詞がしっくりくる、メロディーに合っている、しかもちゃんとひねれていて『バカだなー』と思ってもらえるところまで行くには、プリプロをしたり、メンバーと曲のアレンジをしたり、足軽先生(いとうせいこう)と話をしたりすることが本当に大事ですね。そこで意外なアイデアが出たり、どこかで勝手な思い込みだったことに気づかせてくれたりする」
 ジャンルを問わない聴きやすいサウンド、その軽快にして痛快な「ヌケのよさ」が際立つのも、参加メンバーを含めた「プロジェクト・レキシ」の魅力。もはやひとりでもない。
「メンバーと一緒に作っている、助けられているという意識は、前にも増してきましたね。しかも、今回はもう『レキシの曲って、どういうんだっけ』というところから、あらためて気づかされたりしましたから(笑)」
 実は、この「レキシの曲って、どういうんだっけ」という自問自答こそが、今回のさらなる「ヌケのよさ」につながった模様。
「ひとりで日本史のこと考えていると、どうしても固くなるんですよ。説明的になっていくんですね。大化の改新だったら『大化の改新とはどういうことだったのか』という史実を歌いそうになっちゃう。そこでいやいや待てと、それは日本史の曲だけどレキシの曲じゃないだろう、と(笑)。レキシは大化の改新を説明する必要は無くて、中臣鎌足と中大兄皇子の出会いの瞬間だけにぐーっとフォーカスして、そこだけをピックアップして現代と結びつけてナンボでしょう、と。いや、本当に危ないところでしたよ(笑)」
 この「レキシの曲とは?」への新たなる気づきがありつつも、実はさらに「そこからの変化も感じた」というのが、今回の曲作り。そこには関ジャニ∞「侍唄」やNegicco「ねぇバーディア」など、他のアーティストにレキシとして曲を提供してきたことも大きく関係しているという。
「池田貴史ではなく、レキシとして曲を提供している内に『日本史のことを歌った曲を作るんだ』っていう意識から『(単に)曲を作るんだ』っていう意識に変わってきていることに気づいたんですよ。今までは日本史の中にある何かから導いて、それを現代をマッチングさせることで『レキシの曲はこう』っていうスタイルができてきたんですけど、今回は『現代の曲』を書いているっていう感覚でやってるんですよね。ま、曲のアイデアがちょっと日本史寄りですけど、なにか? ぐらいの感じで。もうね、歴史が先なのか、レキシが先なのかがわかんない」
 そう、レキシの曲は、もはや単なる「歴史」でもない。時代劇や大河ドラマやアニメやマンガで刷り込まれたことも含めて、史実に共感できる日本人のDNA=源泉を掘って掛け流し。その温もりに、なんの違和感も持たなくなっている。そう言われてみれば、セカンド・アルバムの名曲であり、今もなおライヴ会場を稲穂で埋め尽くすことで知られる「狩りから稲作へ」を、あまりに何度も聴きすぎて、なんとなく自分も「どんぐり拾って食べてた」ような気になっていた!
「そうそう、なってるでしょ。聴いている方もこっちも、もう歴史と地続き(笑)。曲はバカだけど受け入れてくれる、そのDNAに感謝ですね」
 ここで、この2年間を振り返ってみれば、その進撃のレキシは、快進撃のひとこと。日本武道館公演、オシャレキシ=上原ひろみとの共演、楽曲提供、シングル・リリース、CMソングの制作、他人の曲を満載した全国ツアー「IKEMAX THEATER」の開催、そして映画『海街diary』への出演に代表される俳優活動などなど枚挙にいとまなし。総合「レキシ」プロデューサーとしての手腕、アイデアにも稲穂が垂れる、いや、頭が下がる。
 つまり、レキシは、とっくに「企画」でもない。レキシは、池田貴史のアフロ頭の中から生まれ、そしていつしか池田貴史を超えて、今やニッポンの共有財産(やや大袈裟)。
 もう一度したためますれば、レキシは、もはや歴史でもない。いや、歴史ではあるのだけど。レキシそのものがすでに歴史なのかもしれない。DON'T STOP レキシ殿。
 最後に余談。今回もまた初回完全生産限定盤(11,930枚)は、レキシさん手書きによるジャケット仕様。
「いや、『V』は書きやすいと思って選んだところもあるんですけど、いざ書いてみたら、筆だとうまくシンメトリーにならないんですよ。上から下と下から上が違っちゃって難しい(笑)」とのこと。初回盤購入者のツッコミどころとしてご記憶願えれば。

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