レキシツアー もう一度遺跡について考えてみよう〜大きなハニワの下で〜

 ここまで来ると、池ちゃんもランナーズ・ハイ状態か、MCもどんどん調子が上がってくる。武道館という大舞台に立ちながらも「新代田FEVERが何個かある感じ」とかます余裕の発言も。その後も細かすぎて伝わらないトークをグダグダと続けつつ(今思えば、大屋政子の名前が出てきたのはなんだったのか)、元気出せ!遣唐使をしつこくいじり倒しつつ、舞台裏で時計を睨んでいるスタッフをさらにヤキモキさせた。しかし、「延長料金は、最初から予算に組み込まれてる」と明らかにし、ここから一気にラストスパートへ!

 12曲目はニュー・アルバム『レシキ』の冒頭にも収められた人気曲「キャッチミー岡っ引きさん」。大きな十手を握りしめ、岡っ引きよろしくステージを右へ左へと駆け回る。そして、いよいよ最後のゲスト・コーナー! お百姓さんの出で立ちで米俵を担ぎながら登場したのは、旗本ひろし(秦基博)。そして、レキシにはなくてはならない人物である足軽先生(いとうせいこう)は、着流し姿にカンカン帽とたすき掛けで登場。二度目の東京オリンピックを前にして、かつて「東京五輪音頭」を歌った三波春夫先生をイメージしたそうだが、それは完全に昭和史だ。さらには、マラソンを走り終えた(設定の)TAWARAちゃんも登場し、歌うは「年貢 for you」。最初のフレーズを旗本ひろしが歌いはじめると、それまでとは明らかに違う黄色い声援が沸き起こる。実に正直なお客さんたちである(笑)。間奏に入ると、同じコード進行のままで、池ちゃんと旗本ひろしが思いついた曲を次々に歌っていくという、大喜利的なパートへ。「ラスト・クリスマス」やら「15の夜」やら、いろんな名フレーズが飛び出す中、またしても池ちゃんのムチャぶりにより、秦基博のヒット曲である「Girl」をサラっとワンフレーズ歌い上げる。その違和感の無さは、偶然にもコード進行が同じだからだろうか、オリジナルで演奏しているメンバーが複数被っているからだろうか。ラストにはNENGUコールも巻き起こり、大いに盛り上がる。曲が終わり、TAWARAちゃんを退場させようとすると、中から聞き覚えのある叫び声が。着ぐるみの中から顔を出したのは、やついいちろう! 「一切紹介しないで帰そうとしただろ!こっちはバンド・メンバーよりも早く会場入りしてるんだぞ!」と猛烈に抗議するも、池ちゃんと足軽先生にいなされ、お役御免となった。そして、初期メンである東インド貿易会社マン(グローバー)をステージへ呼び込み、いよいよ本編最後の曲「狩りから稲作へ」! 会場中が稲穂の気持ちになって腕を掲げ、さらに客席のあちこちからは、本物の稲を手にする人たちも多く見られ、一足早く九段下に米の収穫時期がやってきたかのように、稲穂の波が大きく揺れている。後半に入り、いつもの〈高床式〉からのフリーなパートに突入すると、さすが武道館というスペシャルな展開が待ち受けていた……池ちゃんが勝手に他人の歌を歌っている中で、『アナと雪の女王』の「Let It Go」を歌いはじめた。すると、ステージ後方からエルサに扮したやついいちろうが登場! デコルテラインを強調した衣装で練り歩くやついに向けて、〈ありの~ままの~やつい~見せるのよ~〉と歌い上げる池ちゃん。さらに、曲が進んで〈高床式〉~〈正岡子規〉~〈お寿司が好き〉~〈高岡早紀〉とフレーズが変化していくと、急にスクリーンに高岡早紀さん(本人)の映像が! 会場に行けないことを詫びながら「私も、次回はみなさんと一緒に稲穂の気持ちになりたいと思います。キャッツ!」という華やかな笑顔のビデオ・メッセージが届くと、客席からは大きな拍手が。そして、1万人の〈キャッツ!〉から、旗本ひろしによるキャッツ、さらには、なぜここでぶっ込なきゃならないのか? という通販ダイエット機具〈ワンダーコア〉のCMネタまでやりたい放題に詰め込みながら、20分以上にわたって「狩りから稲作へ」を演奏。最後は〈♪ありの~ままの~レキシ見せたのよ~〉と歌い上げて、本編が終了した。それにしても、字面に起こすと、まったく意味がわからない内容だ。

 アンコールの声が起こる中、スクリーンには映像が映し出される。それは、今回ステージに飾られた巨大ハニワの制作行程を追ったドキュメンタリー。東インド貿易会社マンと百休さん(TOMOHIKO)の盟友とともに、半年前から制作に取りかかったのだとか。慣れない手つきで一生懸命に作業する3人(映像を観る限り、池ちゃんは手を抜きがちだったが)によって完成したのが、舞台向かって右側に設置された巨大ハニワ。もう一方のハニワは、美術のプロが作ったものだとか。見比べるとさすがに仕上がりのクオリティに差はあるが、アーティスト自身がこんな巨大な舞台美術を作るのは、なかなか例を見ないし、それだけに武道館にかけるレキシの想いが込められたハニワなのだ、ということが伝わってきた。

 そんな映像が終わり、再びステージに紋付き袴に衣装替えし現れたレキシ池ちゃんと東インド貿易会社マン。ハニワの前でやるのはこの曲だろうと、アンコール1曲目として「ハニワニワ」を披露することに。元気出せ!遣唐使、健介さん格さん、ヒロ出島の3人が入れ替わり立ち替わりでピアノを連弾していく。その妙技に、大きな歓声が沸いた。そして、残りのバンド・メンバーも登場し、通算16曲目となるプリミティヴなダンス・チューン「salt & stone」を演奏。健介さん格さんのギターと、蹴鞠Changのドラムによる熱のこもったソロは、大観衆も息を呑んで見つめた素晴らしいプレイ。その熱演に応えるように、池ちゃんも最後の力を振り絞ったヴォーカルを聴かせる。メンバー全員のミュージシャンシップをまざまざと見せつけたこの曲で、武道館は興奮の坩堝と化した。

 そんな余韻が残る中、MCをはじめた池ちゃん。来てくれたお客さんたちへの感謝を述べながら、いつになく真剣に心情を吐露しはじめた──2011年にセカンド・アルバム『レキツ』をリリースする直前に東日本を襲った大地震。その後、アルバムをリリースしたものの、世間は長く悲しいムードに包まれていたことを振り返る。「それでも(レキシを聴いたリスナーから)『気が楽になりました』とか言ってもらえて、自分もなんかやらなきゃなって思えた」。そして、今までとくに公にしていなかったが、離婚したことを明かし、「いろいろ大変な時期もあったんですけど、自分としては目の前のことを一生懸命楽しんでやる。それを信念に今まで続けてきた……そうして気付いたら、いつの間にかここにいたっていう感じです」と、この大舞台に立てた喜びを口にすると、武道館を埋め尽くした大観衆から拍手が起こった。その歓声を受けながら、池ちゃんの真っ直ぐな言葉は止まらない。「レキシはよく〈楽しい〉とか〈コミカルすぎる〉とか言われて。あと、『すごく悩んでいても、レキシを聴くとどうでもよくなる』とか。そういう言葉は嬉しいんです、ホントは。でもね、よく考えたら、一番レキシに助けられたのは、俺自身だなって思って。辛い時も、どうしようもない時もいっぱいあったけど、俺が一番レキシに助けられた」。そんなレキシを一緒に作っていった多くの参加ミュージシャンたちや、今まで関わったスタッフに感謝を気持ちを述べながら、最後に「そしてベタですけど、レキシで遊んでくれてる、みなさんのおかげでございます! いや〈みなさん〉じゃないですね。ひとりひとりですね。(客席を指差しながら)あなた、あなた、あなたです! もし辛いなっていう時、言ってくれればすぐ行きます。行って、目の前で、〈きらきら武士〉を歌ってあげます!」と、高らかに宣言!そしてこの特別な日の、本当のラストを飾る「きらきら武士」が演奏されると、武道館は一斉に明るくなり、レキシを愛する一人一人の顔がクッキリと浮かび上がる。ミラーボールが回る上空からはきらきらとした金銀のテープが降ってきて、ステージには今日のゲストも全員集合。グルーヴィな武士のビートに身体は勝手に踊らされながら、涙と汗と笑顔がごちゃ混ぜになってわけのわからない……とにかく説明しようのないすさまじい感動の波に包まれながら、3時間半におよぶ武道館の夏祭りは幕を下ろした。

 レキシという一人ユニットの始動からファースト・アルバムの発表までを〈第1章〉とするならば、セカンド・アルバムから本格的にライヴ活動を展開するようになって動き出した〈第2章〉は、武道館ワンマンでひとつの区切りを迎えたと言っていいだろう──音楽だけにとどまらず、笑いも感動もすべてを引っ括めたエンタテインメントとしての〈レキシ〉──池ちゃんが、かねがねイメージしていたレキシは、この武道館公演をやり遂げたことで新たなフェーズに突入した。つまり「レキシがレキシに追いついた」のだ。そして、この日を境に「レキシがレキシを追い抜いていく」ことになるだろう。これからレキシはどこに向かうのか。それは池ちゃん本人ですら、予想もつかないはずだ。だが、ひとまずは年末に予定された『レキシ vs オシャレキシ』に、そのヒントが隠されていることは確かだと言える。池ちゃんが見せてくれるであろう、誰も知らない未来のレキシに、大きな夢と期待を抱かずにはいられない。

 ちなみに池ちゃんが舞台を下りてきたのは、延長に延長を重ねて、いよいよ本当のタイムリミットの5秒前だったとか(MajiでDekinなる5秒前!)。そういう、なんだかんだ言ってもきっちり収めるところも含めて……いやはやなんとも。レキシ、アッパレ!